青春は足音もなく

男は商店で塩むすびひとつ求めた。男は素っ気ない様子であったが姿格好はみすぼらしく、哀れに思った店員は水をひとつ差し出した。しかし男は、握りしめた小銭をがちゃりと置いて、おむすびひとつ受け取って、店を後にした。喉は渇いていなかったらしい。本当はどうなのか、今となっては知る由もないが、男はほとんど生きていけるだけの食事だけしか摂っていなかった。それから男は道に倒れた。草花の枯れ果てたそこは砂漠と見え、男の体は激しい砂嵐に朽ちていった。男の死骸の埋没した上を、何頭かの駱駝が歩いた。やがて男の埋まっていた筈の遥か地上で子供達が砂の城を作って遊んだ。そこは単なる砂場だったのだ。男は死んでなどいなかったのか。それとも始めから生きてすらいなかったのかも知れない。

Posted by Mist