東京の夢を見たぼくは宙返りして雪になった

東京では雪が降ったらしい。というのも、今日は朝から家に籠もりっきりで、それも、ニュースやワイドショーなんて一度も目にしていないから、どんな状況なのかいまいち判っていないんだけれど、ツイッターで、雪だ雪だとつぶやいているひとがあんまりに多いから、なんとなく、雪が降ってるんだなあとは思っていた。
東京って、雪が珍しいのかな。私は南の方に住んでいるから、もちろん雪なんてほとんど知らないし、修学旅行で、長野に行ったとき、スキー場で初めてあんな銀世界なんてものが夢じゃないんだと思ったくらいで、だけど、東京って、基本、なんでもあると思ってた。夏には夏らしい風景が、冬には冬らしい風景が広がってるのが東京だと思ってたから、雪が降ったくらいで、こんなに騒いでるのも、不思議な気分だった。
それとも今回の雪は、災害級の激しいものなんだろうか。そんな矢先、東京に行った友人から連絡が来て、こっちは雪がすごい、なんてことを言って来て、吹雪でも吹いてんのかな、と思ったりした。
昨日の晩、まだ九時を回ったくらいだったかな、やけに眠気がしたので、自室の小さな炬燵にうずくまって寝た。やっぱり夜中には何度か目が覚めたけど、それでも、普段の私にしてみれば、よく眠れた方だと思う。結局起きたのが八時過ぎで、それから朝食に納豆食べて、そこまでは健康的だったんだけど、その後が問題だったんだ。食べ終わってからそのまま録画したテレビ番組を何本も消化して、まあ、昼頃になって、今度は昼食。また、納豆にしたんだけど、私は納豆が大好きだから、そこは問題ではないんだ。録画してた、最高の離婚っていうドラマを観た。最近始まったばかりで、まだ第一話だっていうんで、これから、観続けるかどうか、見定めというか、まあ眺めてたら、これが、面白かった。主人公が、卑屈な感じで、非常によかった。
二時頃かな、退屈だし、安売りで買っていたベーコンがあったので、丸ごとそのまま食べるっていう、贅沢な行いをしてみたくて、私はそれとウイスキーのおまけについていたグラスをおぼんに載せて自室へ上がった。それでグラスにウィルキンソンを半分ほどそそいでそこに程好く色づくくらいにウイスキーを落した。買ったばかりのI.W.HARPERとか書いてあるウイスキーなんだけど、私は銘柄のことはよくわからない。ただ、ステッキ片手にお辞儀してる紳士のシルエットが描かれていて、それは、好きだなあと思った。
それから録画していたドラえもんなんか観たり、浅川マキを聴いたりしながらベーコンつまんでたんだけど、気づいたらこんな時間で、まったく、一日の経つのは早いね。ほんとに。殊に休日は早い。普段、縛られた生活してるから、急に、自由だよって、そんな広い海に放り出されても、まず、何をしていいのか、うろたえるというか、それで、ようやく心決めたときには、もう半分終わってたりして。今回は三連休でしたけど、早かった。先週のうちは、早く週末にならないかなあ、なんて、週末何しようかなあなんて、待ち遠しくてさ、金曜日なんて浮かれ者だったよ。それなのに、あっという間に終わっちゃった。儚いね。仕事なんて週に二日で十分。人間は、もっと休むべきなんだ。本来は、自由に生きるべきなんだ。時々、わからなくなるよ。このまま、社会に押込められて生き続けていいのかなあ、なんて。けれども、ひとはみんな、そうやって生きて行くものだからね。洋画でかっこよく車飛ばしてるおじさんなんかも、いつもは、仕事してるわけなんだし。まあ、一度くらいは、人生に、映画みたいな出来事があってもいいと思うけどね。それもなしに死んだんじゃ、本当につまらない。一度くらい、夢みたいなこと、起ったって贅沢じゃないさ。それくらい許されないなら、本当に、おしまいだと思います。
それにしても、今日は、東京で雪が降ったなんて、うらやましい。いつか、私の部屋の窓からも、雪景色を見てみたいなあ。それより、東京に行った方が、早いかな。鎌倉も行きたい。よく知らないけど、素敵な場所にちがいない。そのようなささやかな望みを持って、明日から、また週末まで、私は私でなくならなければならない。私を殺して、ひとりの社会人となるのだ。それはとても、辛いことである。誰だって、少年のままが、一番良いのだ。少年が、何も知らない、馬鹿で、ちっぽけな存在だっていうなら、それは嘘だ。いいや、本当だとしても、それでも、少年時代より、輝いている時期は、ひとにはほかにないのだ。生きるためには、少年で在り続けることは許されないのだから、みんな、少年を殺して、立派な大人と呼ばれるようになるか、私のように、暗い籠に閉じ込めて、休日の間だけ、そっと、少年の自分と再会したりするのも、それも、いつまで続くかわからないけど。誰でも死ぬまで少年だというような気もするし、そうでない気もする。私がどんなに願っても、それを決めるのは、私でないのだ。家族でもない、友達でもない。世間でもなければ、もっと、大きな、目に見えない何かが、少年というものを生かしておくのだから、考えることは、もはや、意味がない。
どうか明日、たったひとつ、たったひとつだけでいい、それも、どんなにささやかなことでも構わない、私が、幸福だと思える出来事がありますように。それさえあれば、また、明後日も、生きられる。

Posted by Mist