電球

急いでもとても間に合わない。
いつだって夜はぼくを待ってくれない。
今日は実は映画を観に行ったんです。
それはぼくのずっと観たかった映画でした。
世間の認めた映画です。
そうしてその帰り道に車の窓から町の灯りが妙にうつくしく光るのを認めたときなんの言葉も出ませんでした。
週末にはバーベキューの予定があります。
雨さえふらなければそれでいいと思いながら。
東京の町は今はどうでしょうか。
電車に乗り継いだことさえろくにないぼくです。
手元のマリリンが煙を宙へ走らせて
公園の電燈に蛾があつまります。
彼らはおいしそうに光を食べます。
どんな味がするのかぼくにはわかりません。
ぬるくなった赤ワインの舌触りから
ただただそれを空想するばかりです。
やがて空想がぼくのすべてをなぐさめて
あの冬に聴いた古い歌が
いま木製のラジオから流れるのを
網戸越しにマリリンの残り火とともに
夜へ漏らします。
隣りの家では今日バーベキューをしているようで
楽しげな声と匂いがただよってきます。
欲しいものはありません。
ただもらえるならひとつ欲しいものの名前は
自由と云った気がします。