ランタンの灯に

それははかなむべき事ではありません。
ただ、ふと鼻をかすめただけなのです。
火曜日の朝のことでした。
私はまだ中学生でありました。
火曜日はきらいな授業の多い日でした。
私は火曜日に休むことを、ひとつ習慣のようにしておりました。
朝、懇願して、母が電話をします。
今日は体調が悪いので云々。
あるいは、やがて陽がのぼりきったころ、
担任の先生から電話があるのです。
今日はどうしたの。
受話器を取った私は、もう、遅れて行かざるを得ません。
取らなければ、留守番電話。
普段見ないテレビ番組を見て。
プリンやヨーグルトを食べて。
ゲームをしたり本を読んだり。
少し後ろめたい気がした。
夕陽の頃には近所の女の子がプリントを届けに来て。
懐古のほとんどは憂鬱が占めているが、
ほんの少し幸福の香りがする。
それは煙草の煙のようにあわてて消えてしまうものだ。
だから私達は時々、その全てに幸福を見失ってしまうのだ。
明日の明るい夜もありました。
いつしか人は……。

Posted by Mist