夏祭りの片付け

綿菓子。無邪気な少年が頬張るのも似合う。健気な少女が持つのも絵になる。綿菓子は不思議だ。まるで雲みたい。どこから見たって、雲なのに、それなのに、子供が喜ぶ夢の味。砂糖の魔法。唇に絡みつきそうで、躊躇うけれど、あっけなく溶ける。溶けては物足りぬ。噛み付くのは道化のようだ。しかし舐めるのは明らかに違っている。やはり噛み付く他ない。何にもない宇宙を食べるように、上下の歯は互いに合わさる。口先でつまむのが正解だろうか。それはどこか、開花に近い。薄紅の花びらが、花粉を飛ばしながら咲き誇る。蜂が蜜を求めて漂う。折ってしまうのは簡単だが、指一本分の命ではないだろう。生かされることもまた才能である。柔らかいその体を、唇で千切るのだ。快楽はいつも、正しさの振りをする。善意の皮をかぶる。けれど、棒一本残して、ようやく気付くだろう。甘美は、闇の中からおいでおいでする、悪魔のやつが見せた幻覚だと。その幻覚を、一度も見たことのないやつは馬鹿にされ、うなされ続けている者は、お気の毒ねと心で手を合わせられる。正しく付き合って行くのは難儀だ。誰も口を挟めぬふたりの世界だから、綿菓子の食べ方ひとつ、ろくに知らない大人がいようと、それはそれでひとつの祭りの在り方なのだ。この夏祭りは永遠だ。荷積みの一輪車が這いずる先は、鳥居くぐって誰も知らない。ただ、ひとつの季節が過ぎ去るだけだと微笑む君の横で、昨日までが全てだったと、ぼくが泣いている。

Posted by Mist